2010/02/04

日刊廣島 平成22年1月1日号より 「あってはならない!」広島市・子どもの権利に関する条例  その1

 広島市は「こどもの権利に関する条例(仮称)」の制定に取り組んでいる。平成十九年十月、学識経験者などで構成する「意見を聴く会(審議委員会)」を設置、以来十四回にわたり条例の内容について検討、平成二十年八月に「骨子(試案)」を発表、平成二十一年十二月には試案から改良を重ねた「素案」を公表した。市が「条例」制定に動き出して以降、多くの市民団体や保護者団体などが勉強会や討論会、あるいは有識者を招いての講演会を実施。その結果、子供の育成に関わる団体の大多数から「条例制定反対」の声が上がっている。子供を守るはずの条例になぜこれほど反対の声が強いのか。本紙は前広島市PTA協議会母親委員会委員長・福田孝子さん、広島市おやじの会連絡会会長・橋本英樹さんをお招きし、元全国高等学校PTA連合会会長・渡辺綾子さんにコーディネーターをお務めいただき、おふた方の意見を伺った。なお広島市はこの二月定例市会への条例提案を視野に、一月十五日まで市民意見を募集中である(二十一年十二月中旬収録、聞き手=本紙・倉林)

水面下で進んだ準備

 渡辺 本日は広島市が今、条例化しようとしている「子どもの権利条例」の制定についてお二人にお話しを伺います。私が初めてこの話を耳にしたのは確か平成十九年の初めごろだったと思います。他県の方から「広島市は子どもの権利条例制定を進めているようだけれど、大変面白いことをするのね」という電話を頂いた。私は、国連で採択され日本が平成六年に批准している「児童の権利に関する条約」に関連するものかなと思いました。この条約は発展途上国の恵まれない子供の人権環境を改善する主旨のものです。ところがどうもそんな話ではない。その方とお孫さんが暮らす自治体には、すでに子供の権利条例が制定されており「面白いこと」というのは実は皮肉で「おかしなことをするのね」というイメージでお話しがあったのです。
 それから私もこの条例について調べ始めましたが、橋本さんは広島市が準備を始めていることをいつお知りになりましたか。

 橋本 私が利いたのは二十年の六月頃です。広島市が動き出してから一年以上経って、私の耳に入ったことになります。子どもの権利条例は、いわゆる国連の児童の権利条約からきているという話しでしたが、色々私なりに勉強させていただくと、どうも広島市の条例は中身が違うようだ。「おやじ」仲間でも論議しました。子供を育てる中で「しつけ」という言葉をよく使うと思うんですけれども、それに対して、いったいこの条例はどうなるんや、というのが率直な反応ですよ。

 渡辺 いま「しつけ」という言葉が出ましたが、未成熟だから教え、しつけ育てる。子供は大人の「保護の客体」であるということです。いじめ問題などに関わっている方は「子どもの権利条例」制定は、虐待やいじめ防止のツールの一つになるのだろう」と理解しておられるようです。私も初めはそう思っていました。しかし調べてみると、平成十二年に川崎市で条例が制定されたのを皮切りに、各地で制定された同様の条例では「ありのままの自分でいること」「自分の考えや信仰を持つこと」「秘密を持つこと」「遊ぶこと」「安心できる場所で自分を休ませ余暇を持つこと」等々「自分に関することは自分で決める」などが保障されています。

 橋本 そして第三者のオンブズパーソンによる監視機関をつくっている。こういう例を聞いた。川崎市で子供が授業中に立ち歩いたりすることを長期間続け、担任の教師は毎度のように大きな声で注意していた。ある時、腕をつかんで「椅子にきちんと座りなさい」と大きな声を出して座らせた。するとその後、親御さんが「うちの子供は腕をきつく持たれみんなの前で大声で叱られ恥ずかしい思いをした。これは権利侵害にあたる。この市では子どもの権利条例が制定されているにも拘わらず、どうして子供の権利侵害をするのだ」と訴えた。結局は担任の教師だけでなく校長、そして教育委員会までも謝罪させられたと聞きました。
 教師の行動は教育の一環でしょう。それを謝罪させるなどということがまかり通れば教育は成り立たない。「どうなってんだ、こりゃ」ですね(笑)

 渡辺 保育士で主任児童民生委員をしておられる福田さんは、この話をいつ耳にされて、どういうご意見をお持ちですか。

 福田 最初に聞いたのはいつ頃でしたか、ある会合で「こんなものつくろうとしているよ」と聞きましたが、その時は正直何も考えず「へぇ」と思って聞いていました。一般の親ってそんなものだと思うんですね。そして二十年の夏ぐらいだったと思うんですが、市のPTA母親委員長の立場で、市P協(広島市PTA協議会)の役員さんと一緒に市教育委員会へ行きました。そこで初めて骨子・試案を見せられ、他の自治体の条例も分厚い資料をいただいて説明を受けた。親は「個どものため」っていう言葉には正直弱い。子供のため、子供のためと連呼され「あぁ、それは良いものかもしれない」という意識で話を聞きました。私は保育園でも朝食抜きや母親に感情的に扱われる園児がいることを承知していますが、話を聞き終えると「いやぁ、いらんじゃろう」って思いました。
 虐待・いじめ等から子供達を守っていく条例は他にある。虐待防止条例であったり、青少年健全育成条例であったり、また色々な機関が活動し、頑張って助けようとしている。そしてほとんどの親は様々な問題に直面しながらも懸命に子育てをしていて、子供達も一生懸命生きてます。そこにこの条例を持ってこられたら「一体どうなるの」と思ったのが第一印象です。それをぶつけながら考えながら、これまでみんなと話し合いをしてきました。

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